【自然農】農薬も化学肥料も使わず、土地を耕ない、農作物のつくり方
リード
もくじ
ポイント
耕さなくても野菜が育つ理由:生物多様性の力で土がやわらかくなる
人の手で畑をつくらないのもポイント。放置するのではなく、その土地で起きている生命のサイクルをよく観察し、必要なときだけ手を入れる。
耕さない土は、豊穣な畑になる
耕さない畑では、土のなかで生物が増えて動き回り、こまかい範囲で耕してくれる。耕さないことで、ミミズやダンゴムシ、目に見えない微生物などが働いてくれるのだ。
また生物が食べたりフンをしたりすることは、土をつくることにつながる。植物の根が成長することで、耕してくれることもある。つまり、人が耕さなくとも、すべて自然がやりすぎない程度にやってくれるのだ。このようにして土は自ずと豊かになる。人の手で土をつくろうとしては、かえって土をダメにしてしまう。だから自然農では土は耕したり、土の中に何かを入れたりはしないのだ。
耕し、肥料を与え続けた土は疲弊しきってしまい砂漠のような状態になってしまう、と川口さんは言う。川口さんの畑や田んぼも自然農に切り替えて2年間は土が固くなってしまい、野菜も米もほとんど収穫できなかった。変化が訪れたのは3年目。さまざまな生物が戻った田畑で、野菜も米も育ちはじめ、米は1反あたり6〜7俵の収量をあげ、やがて10俵前後となる。環境がよくなり、作物の性質や田畑の状態にあわせて必要な手助けをすれば、耕さなくても作物はちゃんと育ってくれるのだ。
ただし、耕さないと言っても、一切土をいじってはいけないという意味ではない。畝の表面が荒れてきたり、イノシシなどに畝を崩されたりしたら、表面をならす、凸凹を修正するなどの作業はする。自然の力を取り戻した畑なら、この程度土を動かすくらいであれば、土の豊かな世界が壊れてしまうことはない。
自然界と同じように、自然農の畑の土は幾多の動植物の亡骸の層で覆われている。この舞台の上で、草や小動物、そして作物が今を生きるのだ。
自然農3原則
その1「耕さない」
いちばん大切なのが、「耕さないこと」、そして「土を裸にしないこと」
自然界の大地では、たくさんの動植物や微生物たちが暮らし、次世代へ生命のバトンを渡すことを繰り返している。そこにはかならず枯れ葉や朽ち木、小動物の排泄物、生命を終えた動植物の亡骸の層があり、土がむき出しになっていることはない。自然農では、そのような自然界の亡骸が糧となり、作物たちは健康に育つ。
一方、耕すことによって、そこに生きている多くの生物は殺され、生きる舞台である亡骸の層も破壊されて失われてしまう。耕されてむき出しにされた土は、太陽にさらされて半砂漠化し、土壌流出を起こし、時が経過するにつれてカチカチに締まり、また耕さなければならないという悪循環に陥ってしまう。耕さない畑は、「豊穣の世界」。耕した畑は、「不毛の地」。それほどの差がある。
それまで耕し、肥料を使っていた畑で自然農を始めると、最初の1〜2年は土地が締まって固くなっている。しかし、そのまま耕さず、自然にまかせておけば、かならず生命たちの力で土はやわらかくなる。土がカチカチでも、その場だけ土をほぐし、米ぬか等で少しの補いをして工夫すれば、1年目から実りを手にすることができる。
その2「農薬・肥料を持ち込まない」
耕さず、自然にまかせておけば、土はやがて豊かになる。その時期、その場にふさわしい動植物や微生物を、自然界がバランスよく配してくれる。けっしてミミズがたくさんいるから豊かというわけではない。多くの種類の生命が調和し、活動しやすい舞台を、人間の手でつくることはできない。
人間が何かをそこに持ち込むと、バランスは崩れる。化成肥料や有機質肥料、農薬を持ちこまないのはもちろん、川口さんは酵素や微生物資材なども、一切使わない。ただし、田畑でできた野菜のくずや家庭ごみは畑にまく。家庭ごみは、漢方生薬の煎じカスや貝がらなどであるが、それは許容範囲。また、地力が弱そうなところには、周囲の畦草、米ぬかやコムギのふすま、ナタネの油かすをまく。いずれも原則は、その田畑で養われる家族が消費する分だけ。養分過多にならないようにする。
大切なのは、絶対に土中に埋めないこと。野菜くずはそのままで、米ぬかは油かすやコムギのふすまと混ぜて、作物の近くや少し離れたところ、あるいは作付けしていない草の茂っているところに振りまく。生ごみが余ったら、畑の一角に穴をほって生ごみを入れ、雨が入らないよう板を乗せるなど工夫し、自然に発酵させてからまくとよい。
その3「草や虫を敵にしない」
草も虫も敵ではなく、欠かすことのできない命の一員。養分を生みだし、亡骸は次の生命の糧となり、足元を豊かにしてくれる。
たとえば、よく知られているのがマメ科植物の働きだ。その根には根粒という小さなコブがあって、そこに住んでいる根粒菌という微生物は、空気中の窒素を固定し、アミノ酸や亜硝酸といった養分を宿主である植物に供給している。また、イネ科植物の根は深くまで伸びて、地中に酸素を届けてくれる。
とはいえ、わざわざそのような働きを期待し、マメ科やイネ科の草の種をまく必要はない。自然にまかせているとその時期、その場所にふさわしい草が生えて、やがて土をバランスよい状態で豊かにしてくれる。いろいろな草が生えることで、生物が活動しやすい環境はつくられる。
ただし、草や虫は「敵」ではないが、川口さんも必要なときには幼い作物が負けないように足元の草を抜き、作物が育ってくれば負けないように近くの草を刈り、虫を捕殺することもある。農薬で一掃しようとすると、生態系を崩してしまうが、人の手による捕殺や株元の除草程度なら虫や草が全滅することはなく、バランスが崩れることはない。
自然農の素朴な疑問に答えます
自然農の畑はぼうぼうで、周囲に迷惑をかけませんか?
- 自然農の畑はぼうぼうで、周囲に迷惑をかけませんか?
- 自然農は野放しの畑ではありません。作物よりも草丈の高い草は狩って、その場に敷くなど、作物の状況に応じて手助けをします。きちんと手入れして大切に育てていれば、野放しには見えず、見る人にも不快感を与えないはずです。もしも周囲の人が畝に草を敷いていることを気にされているようなら、「こうすると表面が乾かなくていいそうです」とか、「草の養分がいずれ土の栄養になり、野菜が豊かに育ちます」など、一つひとつていねいに説明をするとよいでしょう。
- 自然農では、虫を一切殺さないのですか?
- 野菜の生長が悪くなるほど数が増えた場合、手で捕殺することはあります。農薬で一掃しようとする場合とは違い、人間の手で捕殺する程度なら自然界のバランスが崩れることはありません。
- いったん害虫が出たら、ずっと畑に棲み続けませんか?
- 草と作物の関係が正常に保たれていれば、虫は草を好んで食べるので作物をあまり食べません。つまり、虫による食害は、草を敵にしなければ怒らない問題なのです。虫が害を及ぼすのは、畑全体の環境のバランスが崩れているため。
たとえば肥料が多すぎれば虫の大量発生を招き、「害」を及ぼすものになります。化学肥料ではなく、自然農で使用する米ぬかや油かすなどでも、その量が多ければ同じ結果を招きます。ただし、自然農ではたとえ虫の害が出たとしても、翌年に持ち越すことはありません。
虫と作物のバランスがとれれば、問題はなくなります。
- 自然農1年目で、まったく野菜が育ちませんでした。自然農に向かない土地でしょうか?
- 野菜も草です。草の育っている場所では、必ず育ちます。うまくいかなかった原因として考えられるのは、草がとても少ない土地とか、刈った草を持ち出してしまった場合です。
また1年目は作物と草と小動物の調和がとれていなかったのかもしれません。あるいは土地が痩せていて地力がなかった、タネをまく時期が適切ではなかった、間引きが適切ではなく作物が密集して育たなかった、湿地で排水が悪かった、タネに問題があった等が考えられます。今まで耕してきた畑を、自然農に切り替えると、いったん土はカチカチに締まり、かたくなります。
しかし、あきらめずに続ければ草たちや小動物、微生物たちの営みと生死の巡りにより、必ず土はやわらかくなり、生命豊かな環境が戻ります。
- 畑で病気が発生したら、来年も同じ病気が出ませんか?
- 病気も虫と同じことです。
病気になった作物をそのまま畑に置いておいても、その翌年に必ず同じ病気が出るわけではありません。
全体の環境がよくなれば、病気は発生しません。しかし、改善されていなければ発生するので、原因を明らかにして正します。
- 自然農に切り替えて何年くらいで野菜が育つようになりますか?
- 始めた年から収穫することも可能です。
直前まで耕していた畑や、痩せている畑では、そのままでは何年もかかりますが、米ぬかやナタネ油かす、刈った草などを敷いて、養分を補えば、1年目から実りを手にすることができます。
- 「耕さない」ということは、表面はでこぼこですか?
- 土を一切いじってはいけないということではありません。
自然農では最初に「野菜の家」である畝を立てたら、それを修理しながらずっと使い続けます。
イモやゴボウなどの根菜を収穫したあとや、イノシシなどに掘られて畝が壊れてしまったら、家を修繕するのと同じで、畝を修復します。
作業しやすいように、野菜が育ちやすいように、畝を整えます。草を敷いた畝を修復したい場合は、草の上に土を盛るのではなく、いったん草をどかし、土の表面を修復してから、再び草を敷き直します。
土を裸にしないことが大切です。
