知り合いに、新聞社を脱サラし、ブランドのコンサル会社を興したおじさんがいます。部下のボインとの浮気が発覚し、奥さんと子どもに逃げられて、買ったばかりのマンションのローンや慰謝料、養育費の支払いにあえぐ残念なおじさんなのですが、地域ブランドの振興と再生の分野ではフロントランナーです。
そのおじさんによると、ブランディングは、信頼と差別化を長期間、維持することだそうです。ぼくは、情報を整理して、きちんと伝える、ということがブランディングだと思っています。
現実のビジネスでも、Webを活用したビジネスでも、ブランディングの大切さは言を俟(ま)ちません。
文脈を活用した “ブランディング”
企業の商品サイトやネットショップなどを見てまわっていると、1種類の商品を売るために、その商品の特徴を1本の記事で、ひと息に解説している記事が多いと気づきます。
それでもある程度は売り上げが見込めるとは思いますが、それは商品を買わなければならないという文脈が、すでにユーザーのなかにできあがっている場合です。文脈が完成していなければ、売れる見込みなどありません。
優秀な営業マンは、商品の特徴を説明するまえに、顧客にどうしてその商品が必要なのか、この文脈を植えつけることからはじめるものです。経営コンサルタントは「顧客教育」と呼びますが、傲慢な感じがするので、ぼくはあまり好きではありません。だから「文脈」という言葉を使っています。
文脈を縦横無尽に使いこなせると、 どんなものだって売りこなすことができます。
実例を引いてみます。
ニンジンの10倍のカロテンを含む野菜Aでつくった健康食品Bを売る場合
健康食品Bはニンジンの10倍のカロテンを含む野菜Aからできており、 がんの予防に役立ちます、などといきなり説明するのはNGです。カロテンにはがんの予防効果がある、とか、ニンジンはカロテンを多く含んでいる、 といった予備知識がないうちから、そういう情報を押しつけても、消費者はこれを処理できません。だから、次のような情報を時間差で与え、消費者の頭のなかに、 健康食品Bが必要だという文脈をじっくり植えつけていくのが、 ブランディングの役割です。
- 抗酸化物質のカロテンには、高いがん予防効果がある。
- カロテンを多く含んでいるのはニンジンである。
- ニンジンの10倍ものカロテンを含む野菜があるという。
- その野菜とはAである。
- 健康食品Bは、野菜Aからつくれている。
広告の世界ではこういうことを、テレビや新聞、雑誌などを駆使しながら、半年~数年という長期的スパンで 仕掛けていきます。
もちろん、そんなことができるのは潤沢な資金あったればこそ。資金力のない零細企業や個人には不可能です。でも、Webサイトの運営にこのやり方を取り入れることはできます。
どうするかというと、 1~5それぞれを説明する記事を用意して、 リンクによる動線をつくり、各記事に順繰りにユーザーを誘導していけばいいのです。
商品を紹介しているページにすべての情報を押しこむより、ずっと理解しやすいし、説得力があります。
あとがき
ひさしぶりに外出しました。家族らしいことをしよう、という話になって、 妻と娘と連れだって、上野へ行ったのです。
まず、動物園で軽く動物をからかって、会席料理屋で、奮発して本膳をいただきました。そのあと、学生だったころ、 友人に連れられて行ったアダルトショップのまえを通りかかり、懐かしさのあまりふらふらと入店しようとしたら、 妻にものすごい勢いでとめられて、
「家族の日」
とにらみつけられました。
もっともだ、と思い直し、娘もいっしょだからと、 ヨドバシカメラを冷やかしに行ったら、 子どものころほしくてたまらなかった、 バンダイの「モグラたたき」を発見。衝動買いしてしまいました。
帰ってきて、さっそくやってみたのですが、 叩けど叩けどモグラは飛ばず、それなのに妻も娘も最初からうまい具合に飛ばすものだから、ふん、という気分になってしまい、何十年来も温めてきたモグラたたきへの憧憬が一瞬で消滅しました。
さておき、 ヨドバシカメラの棚には「モグラたたき」の隣に「忍者たたき」なる類似品があって、そちらのほうがはるかに安かったのに、ぼくも妻も迷わず「モグラたたき」を選んでいました。ぼくらの頭には、叩いて飛ぶのはモグラ、 という文脈がすでにできあがっているからですね。
これも、文脈のブランディング。叩いても飛ばないモグラですが、妙に感心してしまいました。
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