『レッド・ステイト』という映画をみました。
ジョン・グッドマンも出演している、ハリウッドの作品です。
映画の予告編はこちら。
紹介文は次のとおり。
ケヴィン・スミス監督が放つアクションホラー。田舎町に住む3人の高校生が監禁された先は、狂信的キリスト教団。性の乱れの象徴として処刑台に架けられた彼らをめぐり、協会を包囲した特殊部隊と狂信者との銃撃戦が始まる。(「キネマ旬報社」データベース)
まさしく、巻き込まれ型のアクション、といった惹句なので、ソファに深く腰掛けて、気楽なドンパチを期待しつつ見はじめました。
ところが、意外、というか、お口あんぐりの展開で、わたしは途中から予期せず前のめりになってしまうのです。
注)ここからネタバレします。
愛国者法が拡大解釈される可能性を指摘した、リアルな作品
たしかに前半はアクションホラーです。それなりにデキもいいです。
これが中盤以降、がらりとテイストが変わります。
主人公とおぼしき高校生と友人2人が、あっさり殺されてしまうのです。しかも、命からがら教会から飛びだしてきた少年たちを射殺するのはカルト教団ではなく、司法当局なのです。
カルト教団を捕らえる任務を与えられたチームはミスを犯し、それを秘匿するために信者らを人質ごと抹殺しようとするのです。
テーマは、権力を脅かそうとする者を圧倒的な力でもって排除しようとする体制側の怖さ。とりわけ、裁判なしでテロリストを収監できる「愛国者法」を楯にとった彼らのふるまいには歯止めがきかなくなると心配する向きがあり、本作ではその恐怖にスポットをあてているのです。
制定以前から、愛国者法は拡大解釈の可能性が指摘されてきました。この映画では、殺人を犯しているカルト教団にさくっとテロリストの烙印が押されます。テロリストの定義はとてもあいまいで、テロリストなんぞ体制の都合でいくらでも量産することができるわい、と監督はいいたいのです。
作中で、当局の作戦チームのリーダー(ジョン・グッドマン)がこんなエピソードを口にします。
「母方の祖母が犬を2頭、飼ってたんです。純血のブラッドハウンド。一緒に生まれ、兄弟は養育に出された。だから2頭はずっと一緒で、平等に育てられました。最高に穏やかな犬で。あれは――私が9歳の感謝祭。2頭は私につきまとってました。何かもらえると知ってるから。そして、私は2頭に七面鳥のもも肉を1本、投げてやったんです。すると、2頭は相手に獰猛に襲いかかった。歯や爪をむき出して、仲良く育ったことを忘れ、肉が生死を分けるかのようにケンカしたんです。人は権利をかさにとんでもない行動に出る。だが単純に信じる者はその上を行く」(『レッド・ステイト』から)
愛国者法を適用すれば、なんの罪もない国民も簡単に殺すことができる。これはいったい誰のための法律なのだ、こんな問いかけが作品全体を鉛色に染めています。本作はアクションホラーではありません。そんな生ぬるいものではないのです。ぞっとしました。