ストーカー規制法を生んだ桶川ストーカー殺人事件とは?

ストーカー行為に悩む女性イメージ

ストーカー規制法成立以前の日本では、つきまといを中心とするストーカー行為は、その行為だけをみるとさして凶悪性が感じられないため、処罰の対象になっていませんでした。

けれども、つきまといや迷惑電話、迷惑メールなど、一見すると些細に思われる行為も、執拗に繰り返されることで、被害者の心を徐々にすり減らしていきます。やがては神経衰弱におちいってしまうこともある。命の危険を感じている被害者のあいだでは、だいぶ前から法規制を求める声があがっていたようです。

そんななか、ストーカー行為が凶悪犯罪に転じたケースがついに現実のものとなってしまいます。桶川ストーカー殺人事件です。平成11年10月26日に起こったこの事件がきっかけとなって、ストーカー規制法は翌年春、スピード成立することとなりました。

今回は、この痛ましい事件のてんまつを追ってみたいと思います。

桶川ストーカー事件はどんな事件か?

1.被害者

当時20歳の女子大学生、猪野詩織さん。埼玉の方でした。

2.どんなストーカー行為を受けていたか

  • 行動の監視
  • おまえを殺してやる、という脅迫
  • 自宅近所に中傷ビラをまく

ほかにもさまざまな迷惑行為を受けていたそうです。

その結果、彼女は日々の行動をを束縛され、いちじるしく名誉を毀損され、さらに本当に殺されるかも、という強い恐怖を感じていました。

3.どんな対策を講じたか?

当時、ストーカー規制法はありませんでしたから、規制の法律で対処するほかありません。しかし、加害者の行為は日を追うごとにエスカレートしていましたから、刑法の「脅迫罪」「名誉毀損罪」「強要罪」などに該当する可能性があったのです。

彼女とそのご家族は、犯人をまず「名誉毀損罪」で告訴。

さらに、加害者の言葉を録音したテープを、脅迫の証拠として警察に提出。このままでは殺される、助けてください、とうったえたといいます。

4.警察の対応

捜査はおこなわれませんでした。

のちの警察の会見によると、ストーカー行為は、当時の法律で対処しようにも、軽犯罪法違反などのきわめて軽微な犯罪に分類され、加害者の暴走を食いとめる抑止力にならない、というのが、捜査に着手しなかった理由だといいます。

また、ストーカー規制法がなかった事件当時、待ち伏せや監視の告知などの行為も犯罪には該当しませんでした。

5.事件の結末

詩織さんは、無残にも刺殺されてしまいました。

6.この事件でなにが変わったか

事件後、マスコミ各社は、詩織さんの窮状を知りつつ対処しなかった警察をきびしく追求、糾弾しました。世の中をゆるがす大騒動でしたので、覚えておられる方も多いはずです。新聞や雑誌の誌面もテレビ画面も、判で押したように、警察の怠慢が犯人の行為をエスカレートさせ、今回の結果をまねいた、という論調でした。

こうしたマスコミの加熱報道がきっかけとなり、ストーカーをほうっておけば、とんでもない大事件を引き起こすかもしれないという認識が、一般の人々のあいだに浸透。結果、市民の声が政治を動かし、ストーカー行為を厳密に規定し、警察に被害防止のための措置を義務づける法律――ストーカー規制法ができあがったのです。

ご遺族が埼玉県を告訴、その結果は?

警察の対応に怠慢があったとして、詩織さんのご遺族は埼玉県を相手どって裁判を起こしました。国家賠償法という法律にもとづき、損害賠償請求をおこなったのです。が、裁判所は、名誉毀損罪の捜査に関する怠慢は認めたけれど、「県警の捜査と殺人とのあいだに因果関係はない」として、ほかの請求をしりぞけました。ご遺族は埼玉県から計550万円の損害賠償を受けとったそうです。ちなみにご遺族は加害者やその家族らに対しても損害賠償請求をおこなっており、こちらは1億円強の慰謝料の支払いが確定しました。

ストーカー規制法最大の目的とは?

ストーカー規制法の正式な名称は、

スト―カー行為等の規制に関する法律

平成12年5月18日に国会で成立し、翌13年11月24日から施行されました。

ストーカー規制法の第一条では、

個人の身体、自由および名誉に対する飢餓の発生を防止し、あわせて国民の生活と安全と平穏に資することを目的とする。

と定められています。

最後になりましたが、おけがストーカー殺人事件の詳細な経緯や、この事件に対する警察やマスコミの対応などについては、この本がくわしいですから、興味のある方はご一読を。

桶川ストーカー殺人事件 遺言

『桶川ストーカー殺人事件~遺言』清水潔・著、新潮文庫