ロシアの短編アニメ―ションの名作を絵本化したものだそうです。作り手は、世界的に評価の高いアニメーション作家、ノルシュテインさん。彼はこの作品について、こんなふうに語っているそうです。
「霧のなかで、主人公のハリネズミが経験するのは、あこがれと驚き、恐怖、そして喜び……それは人生そのものだ」
あらすじはこんな感じ。
たそがれどき、幼いハリネズミは友だちの小熊の家へ出発しました。いっしょに星を数えるためです。やがて日がとっぷりと暮れて、あたりは夕闇に包まれます。
霧が出てきました。そのなかを手探りで進んでいきます。その道中、ハリネズミは美しい白馬の姿を見かけたり、木の葉の音や樫の大木にビクビクしたり驚いたり、化け物に襲われたり……。そうして、とうとう川に落っこちてしまったのです。
とっても美しい、そして幻想的な世界観です。挿絵も素敵です。
ただ、ノルシュテインさんがいうように、物語に人生がオーバーラップして見えるということはありませんでした。ぼくの感受性が足りないせいかもしれません(笑)。
人生などというおおげさでつかみどころのないものを思う代わりに、子ども時代のある出来事を思いだしました。
小学1年生のとき、子どもの足で30分くらいかかる土地に住む、級友のマッツンの家まで、ひとりでたずねていきました。近所で遊んでいるぶんには、出会うのは顔見知りばかりですが、1歩外の世界へ出るとそこはもう見知らぬ他人ばかり。
子どもというのは、縄張り意識の強い生き物です。とくに、ぼくが通り抜けようとしていた地域は、悪たれの多いことで有名でしたから、やじられたりからまれたりしました。
亀のように首をすくめて、ただ黙ってやり過ごします。反応したら、相手の思うツボですからね。20代のころに滞在していたニューヨークの路地裏でも、このときと同じような思いを何度もしました。
そうやって歩いていると、道に迷ってしまいました。級友の書いた地図だけが頼りですが、なにしろ子どもの書いた地図。デタラメとおおざっぱの中間です。不安がなだれを打って押し寄せてきました。
そんなとき、道の先の曲がり角からマッツンがひょいと姿をみせたのです。
「おっす」前歯の欠けた口を大きく開いて、マッツンはカカカと笑いました。
マッツンの間の抜けた顔を見て、おしっこをちびりそうになるくらいほっとした感覚が、この本を読んでいて、彷彿としてよみがえりました。完全に眠っていた記憶でした。どこかのスイッチがカチリと入ったような感覚でした。
これは、そういう絵本です。
よくわからないですね(笑)。娘に読み聞かせてあげると、先が気になって仕方ないというふうに自分でページをめくりはじめました。暗闇で次になにがあらわれるのかしらん、とドキドキするそうです。子どもの好奇心や恐怖心を刺激するようです。
縦30cmの大型本ですので、絵に強い力があります。
『きりのなかのはりねずみ』作/ノルシュテンとコズロフ 絵/ヤルブーソヴァ
きりのなかではりねずみが体験したのは、あこがれ、おどろき、おそれ、そして、よろこび…、そう、人生そのものなんだ。映像の詩人と呼ばれ、世界的に評価の高いロシアのアニメーション作家ノルシュテインが、短編アニメーションの傑作『きりのなかのはりねずみ』を、新たに絵本として見事に表現してくれました。絵は、ノルシュテイン作品の美術監督でパートナーでもあるヤルブーソヴァが担当。詩情あふれる、美しく、味わい深い絵本です。(「BOOK」データベースより)
こぐまの家に行く途中、はりねずみは霧の中に白い馬を見つけました。おもいきって霧の中に入っていくと…。霧の中ではりねずみが体験する、あこがれ、おどろき、おそれ、よろこびを描く、詩情あふれる絵本。(「MARC」データベースより)
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